iPS細胞ってどういうもの?簡単に解説してみた!

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2017年6月、iPS細胞から育てられた網膜細胞を移植した70代の男性患者に手術が必要な合併症状が現れたという報道がなされました。これは、iPS細胞の臨床研究が行われて以来、初めての手術が必要な合併症状となったためニュースにも大きく取り上げられたのです。

しかし、今回の症状は、移植したiPS細胞が引き起こしたものではありません。手術時に予定とは違うところにiPS細胞が漏れてしまったから起きたそうです。つまり、iPS細胞が別のところで増殖してしまったわけですね。

以上のことから、今回の問題は手術方法にあったわけで、拒否反応などの重大な症状は出ていないとのことです。

というこで、今回のテーマはiPS細胞。一時期はものすごく報道されていましたが、前ほどは取り上げられていませんね。

iPS細胞とは、様々な組織に分化する能力を持つ細胞であり、体細胞から作られたものです。これは本当にすごいことです。本当にすごいので、2012年にiPS細胞を発明した山中伸弥博士がノーベル生理学・医学賞を受賞したわけです。

また、2006年にiPS細胞が発表されてから現代にいたるまで、日本だけでなく様々な国で研究されています。これは山中教授がiPS細胞の特許を無償で提供しているからなんです。

つまり、各国の研究者はiPS細胞を実用化するために、必死で研究してくれているというわけです。今回は、『iPS細胞』とはなんなのか?

そして、それほど画期的なものであるにもかかわらず、なぜすぐには実用化できないのか?簡単に説明していこうと思います。

1.私たちの体

私たちの体は細胞でできています。それも本当にたくさんの細胞からです。だいたい人の体は60兆個の細胞からできていると昔から言われていましたが、最近では37兆個ほどだという研究があります。

人を構成する細胞全てを数えることができないため、おおよその計算で出しているというわけです。とにかく人の体は、ものすごい数の細胞からできていると覚えておいてください。

こんなに大量の細胞を持っている私たちですが、実は元は1つの細胞です。そう!たった1つの細胞から出発したのです。

『受精卵』と呼ばれるたった1つの細胞が分裂し、増殖することで私たちの体は造られているのです。1つの細胞が37兆個にもなるなんて、本当にすごいことですよね。

当然、この受精卵は何にでもなれるのです。人の体を構成する神経や筋肉など、様々な組織へと変化していくわけです。

そして、このように細胞が様々な組織へと変化することを『分化』と呼びます。つまり、受精卵は様々な組織へと分化していくということですよね。

また、受精卵のように全てに分化できる能力を『全能性』と呼んでいます。

2.ES細胞

受精卵のように様々な組織へと分化することができる細胞を獲得できれば、色んなところで活躍できそうですよね。例えば、その細胞から臓器を作れば、ダメになった臓器を取り換えることができます。

また、人間には直接試せない薬も検査できますよね。このように分化能力を持つ細胞を獲得できれば、『再生医療』と『創薬』の面で非常に有益となるわけです。そして、こうした案より発明されたのが、『ES細胞』です。

日本語では胚性幹細胞で、embryonic stem cells の略でES細胞。このES細胞は、様々な組織に分化することができる細胞です。

しかし、ES細胞は受精卵ほどすべてに分化できるわけではないので、全能性ではなく『多能性』を持つと言われます。

ES細胞は様々な組織にも分化できるなんてすごいですよね。これで再生医療も創薬も安泰だ!!と思う方もおられるかもしれませんが、実はそんなことはないのです。なんと、ES細胞には大きな問題があります。

その問題とは、ES細胞は受精卵が少し成長したものから獲得されるということにあります。受精すれば、もう命と言っても過言ではありません。そこから体が、人が命が作られるわけですから。

なので、ES細胞は倫理問題が大きく、規制が厳しくかけられたわけです。いくら命を救う薬の検証だといえ、人の命を犠牲にしてまで、実験はできませんよね。

そして、この問題をも解決できた細胞こそが『iPS細胞』なのです。

※以下補足

ただし、現在実験に使用されているES細胞は、病院などで破棄される受精卵を使用しています。つまり、中絶など得た、破棄されてしまう受精卵ということです。

中絶を希望し、提供したカップルたちはES細胞に利用してくださいと、おっしゃる方が多いそうです。現在のところ、ES細胞のほうが莫大なコストがかかってしまうiPS細胞よりも、利用しやすいのは事実です。

3.iPS細胞

iPS細胞が生まれる前の研究で体細胞の核を未受精卵に移植すれば、リプログラミングが起こることが確認されていました。

リプログラミングとはなにか?体細胞が分化する前の状態に戻り、他の細胞へと分化する能力を得ることです。元は1つの細胞なんだから戻れるんでしょ理論です。

しかし、このなぜこのようなことが起こるのか?それまでは、現象そのものは確認されていましたが、どのような因子が働いているのかがわからなかったのです。

そんな中、山中教授は24個の原因と思われる遺伝子を見つけ出し、体細胞へ導入することで、ES細胞に近い能力を持つ細胞を作ることに成功したのです!つまり、体細胞のリプログラミングに成功したということです。

そして、これこそが『iPS細胞』。日本語では人工多能性幹細胞で、induced pluripotent stem cells の略でiPS細胞です。

最終的には原因遺伝子は24個から4個の遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)にまで絞られ、現在、この4個の遺伝子はヤマナカファクターと呼ばれているのです。

iPS細胞とは、体細胞を元の状態に戻し、様々な組織へと分化させる能力を持たせた細胞ということ。

ES細胞は受精卵から獲得されますが、iPS細胞はその人自身の体から獲得することができるので、倫理問題もクリアできたすごい細胞なのです!

4.iPS細胞の問題点

iPS細胞は自分の体細胞を元に戻し、様々な組織に変えることができるすごい細胞です。しかし、大きく2つの問題点があるため、すぐには使えないのです。

1つ目は癌化してしまう可能性があるということ。細胞増殖しているうちに遺伝子は変異が起きていきます。

普通は変異が起きたとしても修復されていくのですが、どんどん蓄積されると癌になってしまうのです。また、癌化することには遺伝子を導入する方法にも問題があります。

iPS細胞は体細胞にウィルスを感染させることで、遺伝子を体細胞に組み込んでいます。遺伝子は無造作に導入されるので、体細胞が持つ遺伝子が変異を引き起こしやすくなってしまうのです。そのせいで癌になってしまう確率が上がってしまうんですね。

しかし、この癌化に関しては研究がどんどん進み、遺伝子を傷つけにくい方法や癌になりにくい細胞の選別といった技術ができています。これからさらに癌化のリスクが減れば良いですね。

また、もう1つの問題点としては、コストが非常に大きいということです。現在、iPS細胞を製作するだけで、5000万円ものコストがかかっていると言われています。ものすごい費用ですよね。

そして、この他にもいくつか問題があり、まだ一般的には実用化に至っていません。その中でも代表的なのが、拒絶反応の問題です。

当時、自分の細胞から作られる臓器には拒絶反応は出ないと考えられていたのですが、高くない確率ではありますが、拒絶反応を引き起こいしてしまうことがあるそうです。

このようにまだまだ課題は残っていますが、実際に人への臨床研究なども進められているのも事実です。世界で研究が進んでいるiPSによって、再生医療や創薬が躍進する時が近づいているのは間違いありません。

5.さいごに

このような臓器を生み出すことのできるような技術を知ると、もちろん明るい未来を感じますが、恐怖も少し感じてしまいます。

なんでもできてしまうということは、iPS細胞から精子や卵子も作れるということです。実際にマウスでは作ることに成功しています。

このことはなんだか少し怖いと感じるのは私だけでしょうか?もちろん、このような技術は正しく使用すれば、絶滅危惧種を救うことができるのです。

科学は使用者によって善にも悪にもなります。正しい知識を持ち、正しい使い方ができると良いですね!

今回紹介しましたiPS細胞には、今はまだ問題が山積みになっており、世界各国の研究者の皆様が必死で研究を進めて下さっている状況です。きっと近い将来、iPS細胞はもっと身近な存在となるはずです。

治らないとされていた病気も治るようになるはず!そして、このような最新技術が、正しい方向で利用される世の中であって欲しいですね。

当ブログではiPS細胞のニュースを多く取り上げています。⇩

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